【はじめに】    

みなさんはじめまして。この度、『風の町』で月に2回くらいでコラムを書かせていただくことになりました、山口県の南東にある光市室積という小さな港町にある「福祉メイキングスタジオうみべ」(以下うみべ)という福祉施設のオーナーをしております、前﨑知樹と申します。

初回は少し長くなりますが、うみべの紹介をさせてください。

うみべには、決まり事やルールといったものが一切存在せず、誰もがやりたいことをやりたいように自由に生み出し、自由に共有し合いながら生活するといった、世間とはちょっとずれた独自の時間の流れと空気が存在しています。

うみべに通う人たちは、障害があったりなかったりする、子どもから高齢者までと幅広い年齢層の方々なのですが、それぞれに共通点もあります。
それは社会のルールの中に居場所を見つけられなかった人たちだということです。
それは利用者だけでなく、ここで働く従業員や、オーナーである僕自身も一緒。
弱い者たちが自分を含めた弱い者たちのために、自分たちで日々居場所を創りあげているのです。

人が社会で生きる中で、『誰かが決めたルールに従いながら生きる』ということは、安心安全が確保される反面、時に自由の無い空間に疲れて、逃げ出したくなることもあると思います。
「でもどこを探しても自分の居場所なんてない」そんな悩みを抱える全ての方々に僕は伝えたいです、

『悩む必要はないんだよ。創ってしまえばいいんだよ。』と。

    
【うみべができるまで】

福祉の専門学校を卒業した後、人と接することが大好きだった僕は、多くの人と接することができる障害者福祉施設の職員という路を選びました。

福祉職をしていた両親に負けない職員になろうと、これから始まる自分自身の未来へのワクワクが止まりませんでした。

ですが、次第にこの環境に対し何かこれまでにない大きな違和感を感じるようになり、しばらくたって、その違和感の正体は『利用者と職員とが全く対等な存在ではない』ということに対するものだと気が付くつのでした。

僕が身を置いた職場では、表向きは利用者の幸せを作ることをお仕事としていたのですが、日々のタイムスケジュールに追われる毎日に、与えられた業務ミッションをどれだけ短時間で早く終わらせることができるかが、仕事のできる職員の条件となっていました。
その中では、利用者たちが起こすイレギュラーな行動やトラブル、日常に突発的に発生するドラマチックな出来事も含めた全てがその支障となるため、違和感を持ちながらも、僕も目の前の利用者に対して「たのむから静かに大人しく過ごしてほしい」と思うようになっていまいした。

時が流れるにつれて、自分のやっていることが『誰かの幸せを作るための福祉』ではなく『自分のポジションを作るための儀式』なのではないかという疑問が膨らみ始め、僕はそんな自分自身に耐え切れずに「退職」という手段でその場から逃げ出してしまいました。

その後、僕は自分の思い描く福祉の形を信じながら転職を繰り返し、障害者施設や高齢者施設、児童福祉施設など幅広い福祉の分野で、16年間で9か所で働いてきました。

しかし『自身のポジション争いではなく、誰かの幸せのために』といった職場環境にはなかなか出会えず、社会に自分の居場所を見つけられないまま、更に時だけが流れていくのでした。

「もうリタイアしよう」

そう思い始めた時、僕のスマホに1通のメールが入ってきました。送り主は『オカピー』、僕が以前勤めていた障害者就労支援施設に通われていた利用者からでした。

「ともき、また一緒に働きたいよ。あの時は本当に楽しかったんだよ。今おれ居場所がないんだよ。そうだ、ともきが施設作ってよ、おれ行くからさ。」

『僕が施設を作る?またオカピーが好き勝手なことを…、いや、そうか!その方法があった!』

さっきまで10年以上曇りっぱなしだった目の前の景色が、急にはっきりと明るく見え始めたのを覚えています。

『何を社会の変化に期待してるんだよ、そうなんだよ!無いんだから創ればいいんだよ!自分で!』こうして出来上がった福祉施設が「福祉メイキングスタジオうみべ」です。

次回のコラムから、このうみべの「利用者と職員の間に垣根の無い、唯一無二なぶっ飛んだ空間」で毎日のように起きる、多種多様なドラマの数々を、1話ずつご紹介していこうと思います。定期的に更新しますので、どうぞ、うみべを覗いてみていってください。

『ため息の前に、うみべにおいでよ。』